「今はAIで簡単に画像が作れるのだから、漫画もAIに任せればいいのでは?」
昨今の生成AIの進化を見ていると、そのように思いつく人が出てきてもなんら不思議ではありません。

実際、生成AIで『それっぽい漫画風の画像』を作ることは、もう簡単にできます。
しかし、破綻なく漫画として成立している作品をおまかせで作らせるのは、現時点ではかなり難しいのが実情です。

その理由を、漫画家視点で整理してみます。

1. 自然な日本語のセリフが安定しない

まず大きな壁となるのが、日本語です。
ChatGPTを始めとした生成AIの多くは、正しい日本語を画像内に出力すること自体が困難なものがほとんどです。

そんな中、2025年末に公開されたGeminiのNano Banana Proは、ごく自然な日本語を様々なフォントで表現できることで話題になりました。
もちろん吹き出しにセリフを入れてキャラクターに喋らせることもできます。

しかしそれでも生成AIが出す漫画のセリフは、
・日本語として不自然
・語尾や敬語がちぐはぐ
・微妙なニュアンスがズレている
・キャラクター性を維持できない
といったことが頻繁に起こります。

漫画のセリフは、ただ意味が通じればいいわけではありません。
誰に向けて話しているのか、どんなキャラクターがどんな感情で言っているのか、どこで読者の共感を取りたいのか…そういった「空気」までセリフに落とし込んでプロは制作しています。
ここに違和感があると、例え日本語としては間違ってなかったとしても、漫画としては一気に安っぽくなります。

2. 「コマ割り」と「演出の意図」を理解していない

生成AIは、漫画の型をなぞることができます。
コマ枠があって、キャラがいて、吹き出しがある。

しかし、なぜそのようなコマ割りになるのか、なぜそこでこの絵になるのか、なぜここで間を取っているのか、という『演出の意図』を考え構築することはできません。
特にストーリーの流れを作ることや、読者の視線誘導が非常にお粗末です。
キャラが同じような大きさ・同じ向きで連続しており、セリフの中身だけ変わっている…というのは、よく見かける生成AI漫画のパターン。

プロは全てのコマについて、そのコマが存在する理由を説明することができます。
読者に共感させるコマ、場面・状況を伝えるコマ、キャラクターの感情を瞳だけで伝えるコマ、時間の経過を演出するコマ…。
正直、そこのうまさや個性の差は、人間の漫画家であっても大きいのです。
けれど「表面上の情報」だけを学習しているAIには、その意図の判断ができません。

漫画はただの絵の連続ではないのです。

3. キャラクターの一貫性を保てない

生成AIは、絵が非常に上手いです。
様々なタッチの再現も可能です。
(それはなぜかという点に関して、絵描きとしてはこれでもかというくらい眉間に皺を寄せて呪いの言葉を吐かざるを得ないので割愛します。)

しかし、生成AIは「最適解」を出すことが得意過ぎるせいで、どうも漫画のコマにもそれを適用させてしまうようです。
・同じ人物の顔・体型・年齢感がコマごとに微妙に変わる
・服装や小物の設定が勝手に変化する
・表情の連続性が崩れる
といったことがよく起こります。

漫画の人物は絵で表現された「キャラクター」、つまりそこに存在するかのような人物そのものを描いています。
そしてキャラクターの最適解は、1枚絵の中にではなく、連続したコマの中で発揮される必要があるのです。

他にも理由はたくさんあるけど、将来的には…?

簡単な指示で漫画が作れてしまう生成AIは、絵が描けない人にとってはもちろんのこと、絵が描ける漫画家から見ても魔法のようなツールだと思います。
けれど、生成AIによる漫画を『そのまま現場で使う』ことは、現状ではまだ難しいでしょう。

上記に挙げた理由の他にも、クライアントが明確に言葉にしない「空気」を読めない、イメージ通りに作ることにこだわると手描きの方が早い、法的・倫理的リスクの判断が怪しい、情報の重要度を取捨選択し削ることができない、修正に弱い、責任を負えない…など、ちょっと考えただけで問題は山ほどあります。

しかし生成AIの進化の速さを見ていると、いつかそれが解決して本当にほぼおまかせで漫画が作れてしまう未来が来るかもしれないという気もします。
けれど、そうなったとして結局その見極めができるのは、「漫画を描いている人間」だとも思います。
つまり生成AIで漫画を作るなら、漫画が描けない人より漫画家に作らせた方がいいものができるのは間違いないだろうなあというのが私の考え。

依頼する側にとっても、漫画を描く人間にとっても、生成AIの行先は常に注目していく必要がありそうですね。